無妄卦初九:新米が陥りがちな罠「無妄往吉」——愚直に進むのが一番の近道
天雷無妄の初九には「無妄、往吉」(むもう、ゆきてきち)とある。むやみに動かず、見せかけの小手先に走らず、誠実に前へ進めば吉との意だ。物事を始めたばかりの人は近道を求めがちだが、かえって遠回りすることが多い。本稿では、着実に仕事をし、地に足のついたスタートを切る視点から、この爻の知恵を読み解く。
無妄卦(むもうか)、その名の通り——むやみに動いてはいけない、ということです。
「妄(みだり)」とはどういう意味でしょう?
それは、根も葉もないことを考えたり、でたらめに振る舞ったり、現実離れしたことを思い描いたりすることです。
無妄とはつまり——余計なことを考えず、むやみに動かず、地に足をつけて、誠実に取り組むことです。
初九は無妄卦の初爻であり、物事のスタート地点にあたります。
爻辞はとてもシンプルです:「無妄,往吉。」
意訳すると:「むやみに動かず、前に進めば吉となる」ということです。
当たり前の話に聞こえますよね?
着実に仕事をするのが大事なんて、誰だって知っています。
でもよく考えてみてください——
実際にそれを実行できている人は、どれほどいるでしょう?
スタートしたばかりの頃、人は一番「妄」になりやすい
これまでたくさんの人を見てきましたが、始めたばかりの頃にありがちなのが——考えすぎてしまうことです。
新しいことを学び始めて、入門したてなのに、こう考え出します:
「いつになったら上級者になれるかな?」
「いつになったらこれで稼げるようになるかな?」
「何か短期間で上達する方法はないかな?」
「基礎を飛ばしていきなり応用を学べないかな?」
新しいプロジェクトを始めたばかりなのに、こう考え出します:
「いつになったら業界トップになれるかな?」
「3ヶ月で黒字にできないかな?」
「何か近道はないかな?」
こうした考えこそが、「妄」なのです。
大きな目標を持ってはいけない、と言っているのではありません。
言いたいのは——始めたばかりなら、まずは一歩目から誠実に歩み出すべきだ、ということです。
まだ一歩も踏み出していないのに、走ったり飛んだりすることを考えてはいけません。
なぜ始めたばかりの人が一番「妄」になりやすいのでしょう?
理由は3つあります。
1つ目の理由:焦りです。
物事を始めたばかりの頃は、一番焦りやすいものです。
今日始めて明日には結果が出てほしい、と切望してしまいます。
他人が上手くいっているのを見ると、羨ましくなって焦ってしまいます。
でもどんなことにも、それぞれの法則があります。
踏むべき道は、一歩たりとも省けません。
かけるべき時間は、一瞬たりとも減らせません。
焦れば焦るほど、遠回りになりやすいのです。
早く結果を出そうとすればするほど、かえって遅くなってしまいます。
2つ目の理由:知らないことです。
「無知は恐れを知らず」ということわざがあります。
物事を知らない人ほど、「こんなの簡単だ」と思い込みがちです。
知らない人ほど、「自分ならできる」と過信しがちです。
実際に深く入り込んで初めて、気づくのです——
「あ、こんなに難しかったんだ」と。
「あ、自分の今までの考えは甘すぎたんだ」と。
始めたばかりの頃は、物事を知らないからこそ、「妄」になりやすいのです。
自分はすごい、物事は簡単だ、すぐに成功できる、と思い込んでしまいます。
3つ目の理由:近道をしたがることです。
人は誰しも、「まぐれ当たり」を期待する心理があります。
「他人は一歩ずつ歩んできたけど、自分は違う。近道できるはずだ」と思い込みます。
「他人は3年かかるけど、自分は3ヶ月で済むはずだ」と。
「他人は努力が必要だけど、自分は頭が良いからそれで十分だ」と。
でも現実は——
踏むべき道は、一歩たりとも減らないのです。
あなたが近道だと思っている道は、たいてい一番遠回りな道なのです。
「無妄往吉」の、どこが吉なの?
「無妄,往吉。」
誠実に前に進むだけで、なぜ吉になるのでしょう?
1つ目の理由:遠回りが減るからです。
余計なことを考えず、むやみに手を出さず、あれこれ手を広げたりしません。
一本の道を見据えて、一歩ずつ前に進みます。
見た目は遅そうですが、
実際には、遠回りがぐっと減っているのです。
失敗するリスクも減らせます。
試行錯誤に費やす時間も、たくさん節約できます。
早く進んでいるように見える人の多くは、
今日はこれをやり、明日はあれをやり、
明後日にはまた方向を変えて……
何年もあれこれ手を出しているのに、結局同じところをぐるぐる回っています。
一方で誠実に前に進み続けている人は、
見た目は遅そうですが、
ずっと正しい方向に進み続けています。
歩いているうちに、いつの間にか他の人を追い抜いているのです。
2つ目の理由:基礎がしっかりするからです。
「無妄」な人は、段階を飛ばしたりしません。
一歩一歩足跡をつけながら、着実に前に進みます。
基礎がしっかり固まり、地力がつきます。
最初のうちは差が見えないかもしれませんが、
後になればなるほど、差は大きく開いていきます。
基礎がしっかりしている人は、困難にぶつかっても耐えられます。
チャンスが来たら、しっかり掴めます。
挑戦があっても、対応できます。
基礎がしっかりしていない人は、
早く進んでいるように見えても、
ちょっとしたトラブルであっけなく崩れてしまいます。
地震が起きたときに最初に倒れるのは、間違いなく基礎がしっかりしていない建物です。
3つ目の理由:心が安定するからです。
「妄」にならない人は、心が安定しています。
今の段階で何をすべきか、わかっています。
焦らず、不安にならず、他人と比べたりもしません。
自分のペースで、
一歩ずつ進めていきます。
心が安定していれば、
仕事でミスをしにくくなります。
ミスが減れば、
成功率が上がります。
多くの人は能力で負けているのではなく、
心の状態で負けているのです。
焦りすぎて、慌てすぎて、
足元がおぼつかなくなり、
自分で自分を負かしてしまうのです。
「無妄」を実践するには?
言うのは簡単ですが、実行するのは難しいものです。
どうすれば余計なことを考えず、誠実に前に進めるのでしょう?
1つ目:現実を受け入れることです。
どんな現実を受け入れるの?
今の自分が初心者だという現実を受け入れましょう。
自分が他人より劣っているという現実を受け入れましょう。
自分には時間が必要だという現実を受け入れましょう。
自分だけが特別だなんて思わないでください。
自分だけが例外だなんて思わないでください。
過程を飛ばせるなんて思わないでください。
学ぶべきことは学び、練習すべきことは練習し、耐えるべきときは耐えましょう。
現実を受け入れれば、それほど焦らなくなります。
焦らなくなれば、「妄」にならなくなります。
2つ目:今に集中することです。
結果がどうなるかばかり考えないで、
将来がどうなるかばかり考えないで、
今目の前にあることに集中しましょう。
今日学ぶべきことがあれば、それを学びましょう。
今日やるべきことがあれば、それをやりましょう。
目の前のことをしっかりこなし、
足元の道をしっかり歩みましょう。
道は一歩一歩歩いて切り開くものです。
一歩一歩をしっかり歩めば、
自然と目的地にたどり着けます。
目的地ばかり気にして、
足元の道を見ていないと、
かえってつまずきやすくなります。
3つ目:過去の自分と比べることです。
他人と比べないでください。
他人はあなたよりスタート地点が高いかもしれません。
他人はあなたより条件が良いかもしれません。
他人はあなたより運が良いかもしれません。
他人と比べても、
比べれば比べるほど不安になり、
比べれば比べるほど焦って、
比べれば比べるほど近道をしたくなります。
過去の自分と比べましょう。
「今日の自分は、昨日の自分より少し成長した」
それで十分なのです。
ずっと成長し続けていれば、
ずっと前に進み続けていれば、
その人生は無駄ではありません。
最後に
無妄卦初九の「無妄往吉」は、
とても地味な言葉です。
これはあなたにこう伝えています——
物事を始めたばかりの頃は、
あれこれ考えすぎず、
見せかけの華やかさにこだわらず、
近道なんて探さず、
ただ誠実に、一歩一歩前に進みなさい、と。
見た目は不器用で、
遅そうで、
頭が良くないように見えるかもしれません。
でも歩いているうちに気づくはずです——
「自分は頭が良い」と思い込んであちこち近道を探していた人の多くが、
遠回りしたり、ひどい目に遭ったりしていることに。
むしろ誠実に、一歩一歩足跡をつけてきた人の方が、
一番安定して歩めていて、
一番遠くまで行けて、
一番着実に進んでいるのだと。
この世界が最終的に報いてくれるのは、
一番頭の良い人ではなく、
一番着実な人なのです。