無妄卦九五:病気でないなら薬を飲むな「無妄之疾、勿薬有喜」——自然に任せるのが一番賢い
無妄卦の九五には「無妄之疾、勿薬有喜」(思いがけない病いは、薬を使わずとも良い方向に向かう)とある。大した病ではないのにむやみに薬を飲むとかえって悪化するように、大した問題でないことに手を加えると悪くなり、自然に任せれば大丈夫なことが多い。本稿では過剰な不安と「余計なことをしない」視点から、この爻の知恵を読み解く。
無妄卦九五の爻辞は、とても興味深いものです。
「無妄之疾、勿薬有喜(むもうのやまい、くすりをもちいることなかれ、よろこびあり)」
「疾」とは、軽い病気や体調不良のことです。
「薬」とは、服薬や治療のこと。
「喜」とは、喜びや良い出来事を指します。
この言葉を全体的に訳すと——
大した病気ではなく、少し体調が悪いだけ。
むやみに薬を飲まず、治療もしなくていい。
薬を飲まないほうが早く良くなり、かえって良いことがある。
なんだか不思議に思いませんか?
病気なのに薬を飲まないなんて、ただ我慢しているだけじゃない?
慌てないでください。ここで言う「疾」は、本当の重病ではないのです。
小さな不調、些細な問題、ちょっとした変動のこと。
こういう時は、あれこれ手を加えれば加えるほど、事態は悪くなります。
自然に任せていれば、かえって自然に治っていくものなのです。
生活の中に、「無妄之疾」はどれくらいある?
考えてみてください。こういうことって、生活の中に多くないですか?
体の小さな不調:
たまに頭痛がする、たまに眠れない、たまに食欲が出ない。
実は大したことはなく、たぶん最近疲れていたり、ストレスが溜まっていたりするだけ。
なのに無理に検査をして、治療をして、補おうとする。
結果的に治せば治すほど悪くなり、補えば補うほど弱ってしまう。
恋愛の小さな波乱:
カップル同士、たまに意見が合わなかったり、ちょっとしたケンカをしたりする。
ごく普通のことです。
なのに「彼はもう私のことが好きじゃないんだ」「私たちって合わないのかも」と大げさに考えてしまう。
考えれば考えるほど事態は重くなり、騒げば騒ぐほど関係はこじれていく。
最初は何ともなかったのに、最後には本当に別れてしまう。
仕事の小さな変動:
今月の業績が少し悪かったり、
上司に少し叱られたりしただけ。
実は大したことではないのに。
不安になって——
「私ってもうダメなのかな?」「クビになるのかな?」と思い始める。
考えれば考えるほど慌てて、慌てれば慌てるほどうまくいかなくなる。
悪循環に陥ってしまうのです。
子どもの小さな問題:
子どもがたまたまテストで良い点を取れなかったり、
たまにやんちゃをしたりするだけ。
親は慌てて——
「こんなのダメ!将来大学に行けなくなったらどうするの?」と思う。
塾に通わせ、補習をさせ、叱りつけ、説教をする。
子どもはどんどん勉強嫌いになり、成績はどんどん下がっていく。
ほら、
最初はどれも小さな問題だったのに、
あなたが緊張しすぎたり、焦りすぎたり、「解決しなきゃ」と思いすぎたりしたせいで、
かえって小さなことを大きくしてしまい、
単純なことを複雑にしてしまう。
これこそが「無妄之疾」なのです。
最初は病気なんてなかったのに、
むやみに薬を飲んだせいで、
病気になってしまう。
なぜ「勿薬」なのに「有喜」なの?
なぜあれこれ手を加えないほうが、うまくいくのでしょう?
なぜ自然に任せていれば、問題が自然に解決するのでしょう?
一つ目の理由:人の体も物事も、自然に治る力を持っているから。
気づいたことはありませんか?
多くの小さな不調は、放っておいても数日で自然に治るものです。
風邪をひいても、薬を飲まなくても七日で治る。
眠れなくても、数日調整すれば自然に眠れるようになる。
頭痛がしても、少し休めば痛みは消える。
人の体には、強い自然治癒力が備わっています。
大きな病気でない限り、
自分で調整して元に戻れるものなのです。
物事だって同じです。
多くの小さな矛盾、小さな問題、小さな波乱は、
放っておけば、
時間が経てば自然に収まっていくものです。
あなたが手を出した瞬間、
かえってこの自然に治るプロセスを壊してしまう。
手伝うつもりが余計なことをしてしまい、治そうとすればするほど混乱する。
二つ目の理由:過剰な干渉は、新たな問題を引き起こすから。
病気を治しに行けば、
薬には副作用がありますよね?
治療にはリスクがありますよね?
病気でもないのに薬を飲めば、副作用が出てしまう。
軽い病気を大げさに治療すれば、合併症が出てしまう。
物事を進めるのも同じです。
最初はただの小さな問題だったのに、
大袈裟に解決しようとしたせいで、
新たな問題が引き起こされてしまう。
その新しい問題をまた解決しなきゃいけなくなり、
さらに新しい問題が生まれる。
最後には、
問題はどんどん増えて、
どんどん複雑になって、
最初は何が問題だったのか、自分でもわからなくなってしまう。
三つ目の理由:時間こそが最高の薬だから。
多くのことは、
その時は天大な問題に思えても、
時間が経ってから見れば、
たいしたことではなかった。
当時は泣き叫んで乗り越えられないと思った壁も、
今思い出せば、
笑って「あの頃はバカだったな」と思える。
なぜでしょう?
時間がすべてを薄めてくれるから。
人は成長するもので、
成長すれば、気持ちも楽になるから。
だから、何かあった時は、
急いで結論を出さないで、
急いで解決しようとしないで。
自分に少し時間をあげて、
物事にも少し時間をあげて。
少し待ってみれば、
もしかしたら時間が経つ頃には、
問題が自然に消えているかもしれません。
いつ「薬を飲む」べきで、いつ「勿薬」なの?
別にどんな問題も放っておけと言っているわけではありません。
本当に病気になったら、ちゃんと病院に行くべきです。
本当に問題が起きたら、ちゃんと解決するべきです。
大切なのは——
見分けることです。
何が本当の問題で、何がただの小さな変動なのか。
何がすぐに対処する必要があって、何が少し待ってもいいのか。
どう見分けるか?三つの判断基準があります。
一つ目の基準:深刻かどうか?
大きな病気なら、絶対に治療が必要です。
軽い病気なら、少し様子を見てもいい。
何が大きな病気かというと——
普通の生活に影響が出ている、
長い間続いている、
どんどん悪くなっている。
こういう時は我慢しないで、
ちゃんと医者に診てもらって、ちゃんと解決してください。
でもただの少しの体調不良で、
たまに起こるだけで、
すぐに治るようなら、
そんなに気にしなくていい。
いつも通りのことをして、むやみに考え込まないことです。
二つ目の基準:トレンドなのか、変動なのか?
物事が悪くなっているのか、それともたまたまの変動なのか?
例えば業績の下落なら、
何ヶ月も連続で下がり続けているのか、
それとも今月だけちょっと悪いだけなのか?
全体的に下がっているのか、
それともある一つの商品だけが悪いだけなのか?
トレンドとしての下落なら、
ちゃんと重視して、対策を考える必要があります。
普通の変動に過ぎないなら、
緊張しないで、もう少し様子を見ましょう。
人生は直線じゃない。
波打つ線なのです。
高いところもあれば低いところもあり、上がったり下がったりするのは、
ごく普通のこと。
ちょっと下がったからといって、天が崩れ落ちたように思わないでください。
三つ目の基準:急ぐかどうか?
中には、すぐに対処しなければならないこともあります。
遅れたら手遅れになってしまうようなこと。
そういうことは、待たないですぐにやってください。
でもそんなに急がなくてもいいこともあります。
一日早くても遅くても、大して変わらないようなこと。
そういうことは、少しゆっくりしてもいい。
少し待って、様子を見て、よく考えてから行動しましょう。
多くのことは、
その時は「急がなきゃ!」と思っても、
数日経ってから見れば、
実は全然急がなくてもよかった。
それどころか、解決しなくても自然に治っていたりするのです。
「勿薬」の境地:余計なことをしない
「勿薬有喜」は、突き詰めればたった三文字——「余計なことをしない」ということです。
自分の体に余計なことをしない、
自分の恋愛に余計なことをしない、
自分の仕事に余計なことをしない、
自分の子どもに余計なことをしない。
どうすれば「余計なことをしない」ようになれるのでしょう?
一つ目は、完璧じゃないことを受け入れること。
この世に、完璧なことなんてありません。
体がずっと健康なわけじゃない、
恋愛がずっと甘いわけじゃない、
仕事がずっと順調なわけじゃない、
子どもがずっと言うことを聞くわけじゃない。
小さな不調や、小さな問題、小さな波乱があるのは、
普通のことです。
生活の一部なのです。
完璧じゃないことを受け入れれば、
問題を見つけただけで緊張することもなくなるし、
ちょっとした変動で干渉したくなることもなくなります。
二つ目は、時間を信じること。
多くの問題は、時間が解決してくれる。
多くの感情は、時間が消化してくれる。
多くの痛みは、時間が癒やしてくれる。
急がないで、
時間に少しだけ時間をあげて。
弾丸が飛ぶのを、少しの間待ってあげて。
気づくでしょう、
あなたが当初死ぬほど心配していたことの多くが、
時間が経てば、
たいした問題じゃなかったんだと。
三つ目は、大切なことにエネルギーを使うこと。
小さな問題ばかりに目を向けないでください。
見つめれば見つめるほど、問題は大きくなる。
気にすれば気にするほど、事態は悪くなる。
本当に大切なことにエネルギーを使いましょう。
体を鍛えたり、自分を高めたり、ちゃんと生活したり。
あなたの注意が向いているところに、
物事は育っていくものです。
前向きなことに注意を向ければ、
生活はどんどん良くなっていく。
問題ばかりに注意を向ければ、
問題はどんどん増えていく。
最後に
無妄卦九五の「無妄之疾、勿薬有喜」は、
とても達観した言葉です。
こう教えてくれています——
そんなに緊張しないで、
そんなに不安にならないで、
何もかも管理しようとしないで、
どんな問題も解決しようとしないで。
中には、
少し放っておけば、過ぎ去っていくこともある。
中には、
少しゆっくりすれば、仲直りできる人もいる。
中には、
少し待てば、自然に解決する問題もある。
もちろん、
本当の大病はちゃんと治すべきだし、
本当の問題はちゃんと解決すべきです。
何もかも放っておけと言っているわけじゃない。
言いたいのは——
ない問題をわざわざ作り出さないで、
軽い病気を大げさに治療しないで、
むやみに余計なことをしないで、ということ。
自然に任せていれば、
来るべきものは来るし、
去るべきものは去る。
良くなるべきものは、自然に良くなる。
それこそが、一番賢い生き方なのです。