山天大畜 六五:実力者ほど地味なのはなぜ?「豮豕之牙、吉」——本当に力のある人は、鋭さを隠すことを知っている
大畜卦の六五には「豮豕之牙、吉」とある。去勢された豚の牙は人を傷つけなくなり、吉であるという意味だ。これは歯を抜くのではなく、牙を持ちつつも人を傷つけるのに使わないからこそ吉となるのだ。真に実力のある人は牙をむき出しにせず、むしろ穏やかであるというたとえで、本稿では鋭さを隠し柔が剛を制するという観点から、大畜卦六五の叡智を読み解く。
大畜卦の六五を見て、この言葉はなかなか面白いと思った。
爻辞にはこうある:「豮豕之牙、吉。」
豮(ふん)豕とは、去勢された雄の豚のことだ。
牙とは、その牙(きば)のこと。
吉とは、吉祥、つまり良いことがあるという意味。
現代語に訳すと——
「去勢された豚の牙、吉祥」となる。
あなたはこう思うかもしれない——
豚の牙に、何の意味があるの?
それで吉祥なの?
慌てるな。易経の言葉には、どれも深い意味が込められている。
雄の豚の牙は鋭く、人を傷つけることもある。
では、去勢された雄の豚はどうか?
牙はまだあるけれど、
性格はおとなしくなり、
むやみに牙で人を傷つけたりしなくなる。
牙はあるけれど、人を傷つけるために使わない。
これが「豮豕之牙」ということだ。
なぜ吉祥なのか?
それは——
実力はあるけれど、ひけらかさない。
牙はあるけれど、むやみに噛みつかない。
それこそが本当の強さだからだ。
なぜ「牙はあるけど噛みつかない」のが吉祥なのか?
考えてみてほしい。どんな人が一番怖いと思う?
牙をむき出しにして威張っている人ではない。
そういう人は一目でわかるから、
警戒していればいいだけの話だ。
本当に怖いのは、
普段はおとなしそうに見えるのに、
いざという時になると、
一撃でものすごい力を発揮する人だ。
実力はあるけれど、表に出さない。
怒りはあるけれど、むやみに爆発させない。
手段は持っているけれど、些細なことには使わない。
そういう人こそ、本当に強い人だ。
なぜそういう人が吉祥なのか? 3つの理由がある。
1つ目の理由:「木は林に秀でれば、風必ずこれを摧く」——目立ちすぎると風当たりが強くなる。
ひけらかせばひけらかすほど、恨みを買いやすくなる。
強ければ強いほど、他人の標的になりやすい。
木は林に秀でれば、風必ずこれを摧く。
土は岸より出れば、流れ必ずこれを急がす。
行いは人より高ければ、衆人必ずこれを非難する。
昔の人が言っているのは、まさにこのことだ。
あまりにも鋭さをむき出しにしていると、
他人から妬まれたり、警戒されたり、足元をすくわれたりする。
「明槍は避けやすく、暗箭は防ぎがたし」——正面からの攻撃は避けやすいが、背後からの嫌がらせは防ぎにくい。
どんなに強くても、陰で陥れられたら太刀打ちできない。
でも、もしあなたが控えめだったら?
実力はあるけれど、ひけらかさない。
他人から妬まれることも、警戒されることもない。
かえって、自分のやるべきことに落ち着いて取り組める。
控えめなのは、弱腰なんかじゃない。
自分を守るための知恵だ。
2つ目の理由:柔は剛を制す。
歯は硬いか? 硬い。
舌は柔らかいか? 柔らかい。
でも、人が年を取ると、
歯は抜け落ちてしまうのに、
舌は残っている。
どちらが強いと思う?
硬いもの同士がぶつかれば、両方とも傷つく。
柔らかさで硬さを制するのが、一番賢いやり方だ。
本当に強い人たちを見てごらん。
普段はとても穏やかだ。
人と争ったり、口論したりせず、
柔らかくて、怒りも見せないように見える。
でも、いざという時になると、
誰よりも強く、誰よりも揺るがない。
なぜだろう?
彼らの力は、
口先や感情に使われるのではなく、
物事や、いざという場面に使われるからだ。
普段から牙をむき出しにしている人は、
たいてい大した実力はない。
本当に実力のある人は、
それを隠しているものだ。
3つ目の理由:力を溜めてこそ、大きな一撃が放てる。
毎日牙をむき出しにして、
毎日誰かと争ったり競ったりしていたら、
そんな些細なことに精力を消耗してしまう。
本当に大事なことに使える精力なんて、残っているだろうか?
本当に賢い人は、
口先の勝ち負けにこだわらないし、
一時の感情で誰かと争ったりもしない。
精力を節約して、
溜めて、蓄えて、
本当に重要なことに使う。
まるで刀のようなものだ。
毎日抜いては切りまくっていたら、
すぐに切れ味が落ちてしまう。
良い刀は鞘に収めておくもので、
いざという時まで抜かない。
抜いたら、必ず結果を出す。
牙はあるけれど、むやみに見せない。
実力はあるけれど、むやみに使わない。
力を省き、気力を溜めて、
本当に必要な時に、
一撃で決める。
それこそが達人というものだ。
本当に強い人に共通する特徴
本当に成果を上げている人たちを観察してみると、
ほとんどの人がひけらかさないことに気づくはずだ。
彼らにはいくつか共通の特徴がある。
1つ目の特徴:感情が安定している。
彼らが怒り狂う姿を見ることは、めったにない。
どんなことがあっても、
いつも平静で、余裕がある。
怒りがないわけじゃない。
感情をコントロールする術を知っているだけだ。
怒っても問題は解決しないし、
事態を悪化させるだけだとわかっている。
本当の力とは、
どれだけ大きな怒りをぶつけられるかではなく、
どれだけ大きな怒りを抑えられるかだ。
自分の感情すらコントロールできない人は、
どんなに強くてもたかが知れている。
2つ目の特徴:人と争わない。
彼らが誰かと議論している姿を見ることは、めったにない。
あなたが何を言っても、ただ聞いている。
同意できなくても、わざわざ反論したりしない。
笑って流してしまう。
なぜだろう?
そんな必要がないからだ。
議論に勝ったところで、何が得られる?
理屈では勝っても、人間関係は失う。
口先の痛快さを勝ち取っても、
現実の利益は失う。
本当に強い人は、
口先の勝ち負けにはこだわらず、
現実の結果を重視する。
あなたの言うことが正しければ、従えばいい。
間違っていれば、自分のやり方で進めればいい。
争わず弁えず、黙って実力を蓄える。
3つ目の特徴:謙虚で控えめ。
付き合えば付き合うほど、
彼のすごさがわかってくる。
自分がすごいと言っているからじゃない。
彼の一言一行から、
少しずつ感じ取れるのだ。
実力のある人ほど、謙虚だ。
知っていることが多ければ多いほど、
自分の知らないことの方がもっと多いとわかるからだ。
上に行けば行くほど、上には上がいるとわかる。
逆に、中途半端な知識しかない人ほど、
でしゃばりたがる。
少しかじっただけで、
自分が天下一だと思い込む。
謙虚さは取り繕ったものじゃない。
自分の未熟さを本当にわかっているからだ。
控えめさはわざとじゃない。
もっと大きな世界を本当に見てきたからだ。
普通の人はどうやって「鋭さを隠す」練習をする?
理屈はわかっていても、
実際に控えめで謙虚になるのは、
簡単なことじゃない。
特に若い人は、
若さゆえの勢いがあって、鋭さをむき出しにしがちだ。
それは無理もないことだ。
でも、少しずつ抑える練習はできる。
どうやって抑える?
1つ目:言葉には三分の余裕を持つ。
何でもかんでもしゃべらないこと。
自分の底を全部見せないこと。
自分にどれだけ実力があるか、どれだけの財産があるか、どんな計画があるか——
あちこちで話さない方がいい。
一度口に出した言葉は、覆水盆に返らずだ。
自分がすごいと言えば、
妬む人が出てくるか、
警戒する人が出てくるか、
あるいは嫌がらせに来る人が出てくる。
何のメリットがある?
本当に強い人と長く話しても、
どれだけ深い人なのか、なかなか測れないものだ。
それで正解なのだ。
2つ目:むやみに決別しない。
嫌なことがあっても、
すぐに怒ったり、手を切ったりしないこと。
まずは少し我慢して、一旦置いてみる。
流せることは流してしまえばいい。
決別する必要がないなら、しない方がいい。
友が一人増えれば道が一本増えるように、
敵が一人増えれば壁が一枚増える。
もちろん、
底なしに我慢しろというわけじゃない。
本当に一線を越えられたら、
きちんと反撃するべきだ。
しかも、反撃するなら、相手にこちらの本気を見せつけること。
普段は事を荒立てないけれど、
事が起きたら逃げも隠れもしない。
それこそが本当の強さだ。
3つ目:精力を本当に大事なことに使う。
なぜ毎日誰かと争ったり、比べたり、競ったりするのか?
それは、ただ暇だからだ。
他人のことが気になりすぎていて、
どうでもいいような細かいことに気を取られすぎている。
注意を自分自身に向け直そう。
仕事を頑張り、勉強を頑張り、生活を大切にする。
自分のことで手いっぱいになれば、
他人のことであれこれ言い争っている暇なんてなくなる。
本当に忙しくなって、
本当に成長している時には、
他人がどうでもよくなるものだ。
他人と比べて自分を証明する必要もなくなる。
自分自身が強くなれば、
それが何よりもの証明だ。
最後に
大畜卦の六五にある「豮豕之牙、吉」は、
とても深く隠された言葉だ。
これはあなたにこう伝えている——
牙があるのは、あなたの実力だ。
噛みつかないのは、あなたの境涯だ。
実力があるのは、生きていくための基本だ。
でも、実力があるだけでは足りない。
隠す術、抑える術、我慢する術も必要なのだ。
本当に強い人とは、
牙をむき出しにして威張る人ではなく、
立派な牙を持ちながら、むやみに見せない人のことだ。
高い戦闘力を持ちながら、むやみに手を出さない人のことだ。
優れた能力を持ちながら、とても控えめな人のことだ。
彼らは知っている——
鋭さを出しすぎれば、折れやすくなる。
声を大きくしすぎれば、枯れやすくなる。
木が高く伸びすぎれば、風に倒されやすくなる。
あなたに牙がありますように。
そして、牙を使わない知恵も持てますように。
あなたに鋭さがありますように。
そして、鋭さを隠す度量も持てますように。