なぜ堅実に働く人は遠くまで行くのか 坤卦六二「直方大」の生き方の礎
この世には姑息な手がはびこり、口先だけで出世する人や、下心で利益を得る人もいる。だが坤(こん)卦の二爻目が教えてくれるのは、最も素朴なものこそが力を持つということだ。「直方大(ちょくほうだい)」——この三字に、人がどこまで歩めるかの根底のロジックが凝縮されている。
坤(こん)の卦(か)の六二(りくに)の「直方大(ちょくほうだい)」。この爻(こう)は、人として最も素朴でありながら最も力強い土台——「直・方・大」の三文字を説いている。「厚徳載物(こうとくさいぶつ)」は、ここから生まれた言葉だ。
先日、HRで働く友人と食事をした。
彼女は大きな会社に十年近く勤めていて、数え切れないほどの人を見てきた。私は「こんなにたくさんの人を見てきて、結局どんな人が長く活躍できるか、まとめてくれない?」と聞いた。
彼女は少し考えてから、「一番頭がいい人でも、一番要領がいい人でもないわ」と答えた。
「じゃあどんな人なの?」と私が聞くと、
「『根っこがまっすぐな人』だよ」と彼女は言った。
「根っこがまっすぐってどういうこと?」と私が尋ねると、
「その人と付き合っていて、警戒しなくていいってこと。裏切ったり、手柄を横取りしたり、表と裏で顔を使い分けたりしない。物事に自分の規準があって、誰が見ていなくても同じように振る舞う。そういう人は入社したての頃は目立たないし、昇進も早くない。でも年月が経つと気づくの——その人はずっとそこにいて、どんどん安定していく。最初は元気よく飛び回っていた人たちは、とっくにどこへ行ったかわからなくなっているのに」と彼女は話してくれた。
私は聞いて笑って、「それって、坤の卦の六二のことじゃない?」と言った。
「え?何の卦?」と彼女が聞き返した。
「坤の卦の二番目の爻(こう)のこと。爻辞(こうじ)は六文字で——『直、方、大、不習無不利(ふしゅうふり)』って書いてあるんだ」と私は説明した。
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直方大——三文字の重み
坤の卦の六二は、坤の卦の中で最も良い爻だ。なぜか?当位(とうい)で、中を得(なかをえ)て、正しいからだ。
陰爻(いんこう)が陰の位にあって位置が正しく、下の卦の真ん中にあって過不足がなく「中」を得ている。中であり正でもあるから、最も良いのだ。
爻辞は「直、方、大、不習無不利」。
三文字の「直・方・大」に加え、「わざわざ学ばなくても、何をしても不利になることはない」という意味が添えられている。
これってちょっと不思議に聞こえるよね?何も学ばなくて良いなんて、怠け者になっちゃうんじゃない?って。
そうじゃない。「不習」は「学ばない」じゃなくて、「わざわざ小手先のテクニックや駆け引き、裏のあるやり方を学ばなくていい」ってこと。元々あなたが「直」で「方」で「大」なら、その三つで十分なんだ。この三つがあれば、どこへ行っても通用する。
一文字ずつ説明しよう。
**直——つまり正直であること。**
心の中で思っていることと口に出すことが同じで、口に出すことと実際にやることが同じ。遠回しに言ったり、嫌味っぽく言ったり、二枚舌を使ったりしない。
「今の世の中、正直すぎると損をするんじゃない?」と思うかもしれない。
短期的に見れば、本当に損をすることもある。要領のいい人がちょっとした悪知恵で出世して、あなたが真面目にやっていると逆に疎まれることだってある。でも長い目で見れば、正直な人の方が長く続く。なぜか?みんな心の中でわかっているから。誰がどんな人か、時間が経てばはっきり見えてくる。
あなたが正直なら、周りの人はあなたを信頼してくれる。信頼って普段は目に見えないけど、いざという時には何よりも役に立つものだ。
**方——つまり原則を持つこと。**
何ができて何ができないか、心の中に天秤がある。「良い人になろう」ってことじゃなくて、「自分にはこれだけは譲れない線がある」ってことだ。
例えば、もらってはいけないお金はもらわない、言ってはいけないことは言わない、貶めてはいけない人は貶めない。これらは言うのは簡単だけど、実際に利益が目の前にあると、守れる人は少ない。
でも知っておいてほしい——人は選択のたびに、自分の人生の道を敷いている。原則を一度守れば、道は一分広くなる。底線を一度破れば、道は一寸狭くなる。
時間が経てば、道が広い人はどんどん順調になり、道が狭い人はいつの間にか行き場がなくなる。
**大——つまり器が大きいこと。**
目先の損得にこだわらず、つまらない利益で人と争わない。他人が良い思いをしても嫉妬せず、自分が損をしても愚痴らない。
器の大きさは生まれつきじゃなくて、嫌な思いをして広げていくものだ。でも自分から「広げよう」と思わなきゃいけない。一度損をしただけで一生根に持って、いつもそのことばかり言っているようじゃ、器は永遠に大きくならない。
器が大きい人は損をしたことがないんじゃなくて、損をしても前に進める人だ。「過去のことにこだわるより、前に進む方がずっと大事だ」ってわかっているから。
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「不習無不利」の意味
「不習無不利」という言葉、多くの人が誤解している。
「学ばなくても大丈夫ってことだろ」って思っている人がいる。それじゃあ人を惑わせるような話だ。
違う。ここでの「習」は「勉強する」という意味じゃなくて、「習慣づける・染まる」という意味——つまり悪い癖や、小手先の駆け引き、見せかけだけのことを学ぶ、ということだ。
なぜそんなものを学ばなくていいのか?元々あなたに「直・方・大」の三つがあれば、十分だから。そんな余計なものを学んだら、逆に元々持っていた良いものが汚れてしまう。
私はたくさんの人を見てきた。元々は素直で良い人だったのに、社会に出てからいわゆる「生きるテクニック」——お世辞の言い方、責任のなすりつけ方、手柄の横取りの仕方、人を踏み台にして上に行くやり方——をたくさん学んでしまった人たちだ。
そういうものを学ぶと、短期的にはちょっと得をしたように見えるかもしれない。でも考えてみてほしい——そんなものを学んでいる間に、あなたが一番価値のあるものを失っているんじゃないか?
あなたの一番価値のあるものは何?正直さ、原則、器の大きさだ。それらを失ったら、たとえ上に行けたとしても、安定して立っていることはできない。
ウェン老師(ろうし)はよくこう言っている。易経(えきけい)は「どうやって得をするか」を教えてくれるものじゃなくて、「どうやって遠回りしないか」を教えてくれるものだ、と。多くの人は「近道の方が早い」と思っているけど、実は近道こそが一番遠い道なんだ。
大きな道を行くのは遅く見えるけど、一歩一歩確実に、安定して長く進める。小さな道を行くのは早く見えるけど、道端には落とし穴がいっぱいで、ちょっと気を抜くと落ちてしまう。
「不習無不利」とは、こういうことだ——真面目に大きな道を行く方が、どんな邪なやり方を学ぶよりもずっと良い。
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直方大を職場で活かすには
ここまで理屈を話してきたけど、実際の現場では具体的にどうすればいいの?
三つの実践的なアドバイスをしよう。
**第一に、言葉は正直に、だけど人を傷つけない。**
正直というのは、思ったことを何でも口にする「口が軽い」ことじゃない。心がまっすぐなのは、人に信頼してもらうためであって、人を全部怒らせるためじゃない。
どう言えば「正直でも人を傷つけない」のか?
たった一つのコツがある——「事実を言って、評価はしない」ことだ。
例えば同僚の作った企画書に問題があったとき、「この企画書、ひどすぎるよ」って言うのは評価だ。「ちょっと見たんだけど、ここのデータがちょっとおかしい気がするんだ。もう一度確認してみてくれない?」って言うのは事実だ。
同じように問題を指摘しても、事実を言う人には感謝されるし、評価する人には恨まれる。
**第二に、仕事は原則通りに、だけど堅苦しくならない。**
原則を持つというのは、頭が固くて何でもルール通りにしかできない、融通が利かないということじゃない。
原則は底線であって、足かせじゃない。底線の上なら柔軟に対応していいし、底線を下回ることは絶対にしない。
例えば「会社の規定で顧客からのプレゼントは受け取れない」というのは底線だから、破っちゃいけない。でも顧客がお正月に「地元の特産品です」って送ってきて、そんなに高いものでもないのに、返送したら逆によそよそしくなっちゃう。そんなときは受け取って、後でこちらから会社のノベルティを送り返せばいい。これが「原則はあるけど堅苦しくない」ということだ。
**第三に、器は大きく、だけど都合のいい人にならない。**
器が大きいというのは、何でも許して、人に嫌なことをされても我慢するということじゃない。それは器が大きいんじゃなくて、ただの情けない人だ。
器が大きいというのは——小さなことにはこだわらないけど、大事なことには曖昧にしない、ということだ。
同僚に手柄を横取りされても、「そういうこともあるよね」ってわかっていればいい、わざわざその場で怒鳴り合う必要はない。でももし誰かがあなたの評判を落とそうとしたり、あなたの核心的な利益を奪おうとしたりしたら、ちゃんと反撃しなきゃいけない。
器が大きいのは、「自分から進んで相手と同じ土俵に立たない」と選んでいるのであって、反撃する力がないわけじゃない。
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最後に
あのHRの友人が、もう一つ話してくれたことがある。
彼女の会社に二十年近く勤めているベテラン社員がいて、下っ端からずっと上がってきて今は部長だ。能力が一番あるわけでもないし、情商が一番高いわけでもない。でも誰もが彼を認めている。
なぜか?これまで長い年月、彼が誰かの悪口を裏で言ったという話も聞いたことがないし、誰かの手柄を横取りしたのを見た人もいないし、表に出せないようなことをしたのを捕まった人もいないからだ。
彼女は「そういう人って、会社の錨(いかり)みたいなものなんだよ。会社がどんなに変わっても、そういう人だけは動かしちゃいけない。動かしたら、みんなの心がバラバラになっちゃうから」と言っていた。
ほら、これが「直方大」の力だ。
それはあなたを一夜で大金持ちにしてくれることもないし、すぐに出世させてくれることもないし、人混みの中で一番目立つ存在にしてくれることもない。
でも、あなたを安定して、長く、着実に歩ませてくれる。
時代は変わっていくし、やり方はどんどんシンプルになっていく。でも一つだけ、ずっと変わらないことがある——結局、最後に勝つのは人柄なんだ。
人柄って口先だけの言葉じゃない。「直・方・大」の三文字そのものだ。
「直」はあなたの心の中の天秤で、「方」はあなたの足元の線で、「大」はあなたの頭上の空だ。
この三つを守り抜けば、あなたの人生はきっと悪くならない。